横浜家庭裁判所 昭和40年(少イ)14号 判決 1965年12月23日
被告人 三信興業有限会社
代表者 徐炳賚
和田高喜
主文
被告人和田高喜および被告人三信興業有限会社を各罰金一万円に処する。
被告人和田が右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
<1> 被告人三信興業有限会社は横浜市中区若葉町一丁目一〇番地で公衆浴場トルコぶろ「トルコ・タンポポ」(各室ごとに浴槽とむしぶろとを設備する浴室十七室を設け、更衣とマツサージもこの個室内で行うよう内部が仕切られている)を経営しているもの、被告人和田高喜は昭和三九年八月から昭和四〇年三月まで、右浴場の支配人としてトルコ嬢の雇入、監督その他営業に関する一切の業務を担当していたものであるところ、被告人和田は、右被告会社の営業に関し、法定の除外事由がないのにかかわらず、昭和四〇年一月五日ごろ年齢を確認すべき注意義務を怠つて、児童である中野京子こと○井○美(昭和二二年七月二〇日生)をいわゆるトルコ嬢として雇い入れ、同月六日ごろから同月二〇日ごろまでの間、四日ごとの休暇を除き毎日午後八時ごろから翌日午前四時ごろまでの時間に、前記浴場内の密室たる浴室において男客に個々につかせ、児童自らはパンティとブラジャー姿で、全裸の男客の身体の洗い流しとマッサージとをし、その際客からはいわゆるスペシャルサービスと称する性的剌激行為(客は一定基準の対価を払う)を求められこれに応ずるであろう機会を持つところのトルコ嬢業務に稼働させ、もつて児童の心身に有害な影響を与える右業務行為をさせる目的をもつて児童を自己の支配下に置いたものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
<3> 被告人和田高喜の判示行為は児童福祉法第三四条第一項第九号第六〇条第二項第三項に該当するから、
所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人和田を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、
被告人三信興業有限会社に対しては、児童福祉法第六〇条第四項第二項により、罰金を科することとし、罰金一万円に処することとする。
(弁護人の主張に対する判断)
<4> 弁護人は、本件の雇用関係は児童が自発的に雇主を訪れ雇主の示した雇用条件を自らの自由な意思によつて承認して成立させたものであつて、そこには、支配の状態が正常でなく、例えば親分子分といつたような封建的な従属関係はなく、また強制半強制の状態もなかつたものであるから、児童福祉法第三四条第一項第九号所定の正当な雇用関係にあつたものであると主張するけれども、判示のようなトルコ嬢業務につかせることが児童の心身に有害な影響を与える行為である以上、たとえその雇用関係の発生が児童の自発によつてはじまり、児童の自由意思によつて雇用が成立したとしても、これをもつて同法法条の除外事由たる正当な雇用関係に基く場合であるとは解されない。なお、本件においては雇主側が管理する判示のような規模の営業施設内において日々一定の時間児童を監督しつつ稼働させ、雇主の営業として定められてあるトルコぶろ特有の業務内容に従つて作業させるべく、児童に対する意思づけをしたうえこれを使用したものであるから、その間児童を自己の支配下に置いたものに該当するものというべく、これには、弁護人の云うような封建的な自由拘束の関係、または強制半強制の状態がなければならないと解すべきものではないといわなければならない。
よつて主文のとおり判決する。
(判事 野本三千雄)